谷川連峰 十二社ノ峰(1398.6m)、松ホド山(1481m)、烏帽子岳(1621m)、三尾根岳(1720m)、スルス俣山(1642m)、小出俣山(1749.1m) 2013年3月30日

所要時間 5:00 林道入口−−5:10 斜面に取り付く−−5:19 稜線−−7:02 十二社ノ峰−−7:31 松ホド山−−8:18 烏帽子岳−−8:22 鞍部(休憩) 8:56−−9:35 三尾根岳−−9:56 スルス俣山−−10:16 稜線−−10:39 小出俣山(休憩) 11:30−−12:22 林道−−13:13 林道入口

場所群馬県利根郡水上町
年月日2013年3月30日 残雪期日帰り
天候晴れのち曇り、ガス
山行種類残雪期の藪山
交通手段マイカー
駐車場川古温泉手前に広い駐車場あり
登山道の有無無し
籔の有無標高1300mまではさほど深くないが、烏帽子岳〜三尾根岳の稜線は笹と灌木藪が酷い。他も主に笹藪と思われる
危険個所の有無岩場のトラバースあり。急な雪渓横断となる場所ではアイゼン、ピッケル必携
山頂の展望十二社ノ峰:ちょっとあり
松ホド山:あり
烏帽子岳:あり
三尾根岳:あり(ガスって展望皆無)
小出俣山:あり
コメント川古温泉の林道入口を起点をにして時計回りに周回し、下山はオゼノ尾根を利用。まだ3月なのに思ったより残雪は少なく、標高1200mを越えないと雪が使えなかった。松ホド山〜三尾根岳間は尾根が痩せて東側が切れ落ちて雪が落ちてしまい籔漕ぎ。今回はここが登りだったので失敗。ただし露岩を巻いたりの危険個所は登りだったので通過しやすかったかも。三尾根岳〜小出俣山間はガスって展望なし




ゲートを出発 ここで林道を離れて斜面を登る
稜線直下 稜線に出たら目印があった
ほとんど危険はないが何故かフィックスロープ 標高850m付近
熊棚 標高1000m付近
標高1200m付近 標高1220m付近
標高1280m付近。古い足跡が登場 標高1290m付近の痩せ尾根
標高1350m付近 十二社ノ峰山頂
久しぶりに見たGさん標識
達筆標識も久しぶり 北を目指す。無雪期でもまだ籔は薄いらしい
なだらかな尾根 1460m峰
1460m峰。籔が出ている 1460m峰の西側を巻く
1450m鞍部 松ホド山へと登る
松ホド山山頂 松ホド山から振り返る
松ホド山から見た小出俣山方向。まだガスがかかっている

小出俣沢左俣に架かる滝 松ホド山の下りは石楠花籔が出ていた
1450m鞍部から登りにかかる 最初の岩の右を巻く
巻き終わってから岩を見る 次の岩はでかい。雪が落ちて左(西)しか巻けない
西を巻いている最中 急な残雪帯も横断。ここでアイゼン装着
まだ急な雪田をトラバース&登る また稜線は岩峰になり、また右に巻く
巻いて稜線に出ると安全地帯 雪を伝わって烏帽子岳に
烏帽子岳手前から見た三尾根岳方向。山頂はガスの中
  • 烏帽子岳へ
烏帽子岳山頂 南側のピーク。少し低いように見える
これから向かう三尾根岳はガスの中 1580m鞍部のテント跡
1580m鞍部から見た南の展望
1580m鞍部から見た烏帽子岳山頂への尾根。籔が出ている 三尾根岳へ向け出発
早速雪が落ちて稜線上の籔漕ぎ 岩があると西に巻く
振り返ると烏帽子岳 この付近は枝という枝は霧氷。漕ぐと氷が降ってくる
1780m肩から南を振り返る
まだ籔が続く ガスに突入
標高1680m平坦地付近。エビノシッポがびっしり 登りにかかるとまた籔が
三尾根岳山頂が近付くと平坦なのに雪が無い 三尾根岳山頂。一面の笹と低灌木藪
ガスの中、スルス俣山へ向かったと思ったら西尾根だった トラバースして次の尾根は北西尾根
さらにトラバースして目的の尾根に乗る 1650m峰
スルス俣山山頂 スルス俣山山頂。籔が出ていた
次は小出俣山へ向かう。まずは南下 霧氷で枝は真っ白
三尾根岳の登りの始まり&雪庇が消えたらトラバース開始 トラバース中
ガスで先は見えない 間もなく稜線
1650m鞍部で稜線に乗る。小出俣山方向 1650m鞍部から三尾根岳方向
尾根直上で雪庇が落ちたところは笹藪 できるだけ雪が残ったところを利用
でも雪庇にクラック多数あり 北斜面のトラバース。低木藪
ここも雪が落ちるのも時間の問題 ここは北側を迂回
小出俣山山頂。ガスの境界線上 三角点が出ていた
小出俣山から見た南側の展望。北側はガスで真っ白
下山開始 オゼノ尾根を下る
オゼノ尾根上部から見た阿能川岳から南に延びる稜線
まだ霧氷が凄い 小出俣山を振り返る
谷川岳はガスの中 ブナに覆われた尾根が続く
十二社ノ峰の稜線
標高1420m付近で露岩あり。東側を巻く 巻き終わって露岩を振り返る
再びおだやかな尾根を下る 標高1120m付近。かなり雪が消えているが藪薄い
松ホド山〜烏帽子岳間の岩峰。西(裏側)を巻いた 標高1040m付近
標高950m付近 オゼノ尾根末端

尾根末端は杉植林 野生動物観察用の赤外線感知式デジカメ
林道に出た ゲートから3.1kmらしい
小出俣沢左俣 起点から2kmくらいで林道上の雪が消える
発電所の取水口。大半の水がここで吸い込まれる 巨大落石
往路で取り付いた個所。曲がった杉が見える 上部を見上げる
ヤドリギみたいのは熊棚 オーバーハングした岩
ゲート バイクなら上がれる道あり
林道入口の駐車場


 数年前の残雪期に小出俣山へ登ったことがあるが、前日降った新雪で猛ラッセルとなりほうほうの体で小出俣山山頂へ登っただけで、他に足を延ばすことができなかった。その翌年、阿能川岳に登ったので小出俣沢源流部の馬蹄形で残ったのは西半分。今年はその残りを攻めることにした。危険地帯があるのはネットで知っていたのでそこが登りとなるようスタートは十二社ノ峰南尾根とし、十二社ノ峰、松ホド山、烏帽子岳、三尾根岳と北上、スルス俣山を往復して小出俣山に至り、オゼノ尾根で千曲平に下って林道ゲートに戻る時計回りの周回ルートだ。核心部は烏帽子岳手前〜三尾根岳にかけて現れる岩壁帯で、どの程度の危険かは現場に行ってみないと分からないが、一般論としてこういう場所は下りより登りの方が安全である。それに、万が一雪や天候の状態が悪くて途中撤退する場合でも、最初に十二社ノ峰から始めれば成果はゼロにならずに済む。

 今回は南会津より近いので夜10時過ぎに登山口となる林道入口駐車場に到着。明日の準備をしているときに腕時計兼高度計を忘れてきたことに気付いたが東京まで戻るわけにはいかない。幸い、現代の電子機器は時計機能が付いていることが多く、GPSロガーの液晶表示にも時刻が出せるので、いつもは雨蓋に入れているのをウェストポーチに移し、いつでも取り出せるようにして時計代わりに使うことにした。高度も分かっていい代用品だ。周囲に雪は全く見られず、どの程度高度が上がると雪が登場するのかは分からない。とりあえずスノーシューではなくワカンを担ぐことにして12本爪アイゼンにピッケル、今回は補助ロープもザックに入れた。休憩時にひっくり返って寝るために断熱マットを持っていくはずだったのだが家に置いてきてしまい、応急処置として車の窓の日よけを動員。これも断熱が目的の製品でアルミ蒸着した薄い発泡樹脂マットであり、半分程度に折りたたんだ状態だと雪の上でも充分な断熱性が得られるのだった。当然、重さも軽いので銀マットの代用品として使用可能だ。

 翌朝、まだ暗い5時に出発。駐車場の車は私の1台のみ。夜中に上流へと入っていった車が数台あったが渓流釣りだろうか。久しぶりにヘッドランプを点灯して出発。ゲートを越えて林道歩きだ。地形図を見ると十二社ノ峰南尾根末端はゲジゲジマークで囲まれていて尾根上を行けるか分からなかったので、ゲジゲジマークが終わった北側鞍部へ林道から突上げることにした。真っ暗で地形が分からないので地形図のカーブの具合と林道のカーブの具合を比較しながら歩いて鞍部直下を特定、根元が曲がった杉の木から強引に法面気味の土の斜面を登り始める。地形図では法面記号だけあってまっすぐ登れる傾斜ではなく、斜面に生えた木に掴まりながらジグザグに登る。植林帯に入るとやや傾斜が緩むが、その上の自然林がまた急傾斜で、落ち葉で滑りやすくピッケルで支えながら登っていく。ここで明るくなり始め、稜線に出るころにはライトは不要になった。

 稜線には明瞭な踏跡は無いが藪もなく、枝にテープが付けられていた。ルートに乗ったらしい。すぐに尾根上に露岩が登場するが尾根が太いので簡単に巻ける場所だったが、右に巻くルートにフィックスロープが張ってあった。いくら冬季でも不要と思える場所だったが、設置目的が謎だ。ここでロープを張るくらいならこの先の全ての危険個所でロープがあっても不思議ではない。しかしロープを見たのはここだけで、この後はテープも少なかった。尾根が明瞭なので少なくとも登りでは目印など不要だ。せっかく残雪の藪山に来たのだから人の気配は薄い方が歩きがいがある。

 しばらくは雪は全く見られず、落葉広葉樹林の明るい尾根を淡々と登っていく。地形図には現れない微小なピークや鞍部が登場するが、ほぼ登り一辺倒が続き現在位置の特定がしにくい。周囲にはたくさんの熊棚が見られ、生息数の多さがうかがえた。ただし、今週も熊の足跡は見かけなかった。

 標高1200mを越えると傾斜が緩んだ個所の東側直下に残雪が見られるようになり、薄くて歩くのに問題が無いレベルの笹も見られるようになる。やっと雪が連続するようになり、昨日のものと思われる足跡が登場。歩幅からすると私と同様に登りと思われた。雪質は良好でつぼ足でも全く沈まず、3月とは思えない。先人の足跡は私より遅い時刻に登ったのだろう、明瞭な跡が残っていた。

 徐々に雪が増えて快適な雪稜歩きを楽しんで十二社ノ峰山頂に到着。ここも残雪に覆われているが西側は笹が出ていたので積雪量はさほど多くないようだ。山頂標識は3つ、久々に目にする達筆標識に、これまた久しぶりのGさん標識。尾瀬の大行山以来だろう。もう一つの標識も立派だ。3つも揃っているとは藪山としては多いと言っていいだろう。達筆標識のKAさんは基本的に残雪の山は登らないので、たぶん無雪期に付けられたのだろう。周囲は落葉樹林で枝を通して風景は見えるが写真を撮影するほどのものではなかった。ここまで約2時間、予想以上に早く到着し疲労は感じないのでこのまま先に進むことにする。最近の山は標高差が大してない山ばかりで今回の山行は体力的に心配だったが、大丈夫らしい。

 次の松ホド山まではなだらかな尾根が続き雪稜歩きが楽しめる。北方の展望が開けるが小出俣山や三尾根岳にかけての稜線はガスの中に隠れていた。今ここでの気温は-2℃くらいなので、あのガスの中ではエビのしっぽが発達しているだろう。私が登りつく頃には晴れているといいのだが。明日は天気が下り坂で風向きが南寄りに変わってくると予想され、今は北風で雲が新潟方面から押し寄せてきているのが逆に押し上げられるかもしれない。

 松ホド山手前の1460m峰はてっぺん付近は笹と灌木藪が出てしまっており、東斜面は傾斜が急で雪が落ちているのでまだ雪が残る西斜面を巻く。鞍部から登りあげると南北に細長い松ホド山山頂に到着。かろうじて残った雪庇で藪が埋もれ東側の展望がいい。そういえばここまでの稜線で目印って見てないかもしれない。まあ、これだけ明瞭な尾根なので目印は不要だが。どこが山頂なのか不明瞭だが、山頂一帯に標識もなかった。まだ疲労は大丈夫なので烏帽子岳まで登ってから休憩することにする。

 松ホド山の下りは雪が落ちて藪が出ているが、いやらしいことに尾根上は石楠花中心で突っ込むきにはなれず、腰をかがめて西側斜面に潜り込む。ここも石楠花の森だが尾根上よりも密度は低く、最初だけ藪漕ぎ状態だが斜面に降りればそれほどではなかった。石楠花の森の中にも微かに踏跡のような筋が見られた。

 鞍部に出ると雪にありつけるが、100mくらい前方の高まりは明らかに切り立った絶壁で、尾根上は登れそうにない。風下の東斜面の雪庇はすでに落ちてしまい、ずり落ちてズタズタに割れていてこれを伝って迂回するのはあまりにも危険だ。西側を迂回するしかなさそうだが、ここからは岩峰の裏側になるので迂回可能な地形かどうかわからない。でも、ネット検索で引っ掛かった記事を見るとちゃんとこの稜線を通過しているので、何らかの通過可能ルートがあるのは確実だ。今回は訓練がてら事前に他人の記録は読んでいないので、1年以上前に読んだ記録の微かな記憶しかない。

 雪が落ちて藪が出た最初の小ピークは露岩で、ここは簡単に西側の藪の中を巻く。次のでかい岩峰が難関で、雪が残る右(東)を巻こうと思ったが、鞍部から見たように雪は今にも崩壊しそうな危険極まりない状況で、急斜面なので雪が崩壊すれば谷底へ一直線だ。藪を回避できるとしても通るのは不可能、やはり左(西)を巻くしかなさそうだ。最初は笹と灌木の斜面でどうということはなかったが、岩を巻き終えて小鞍部直下は急な雪渓が斜面を横断していて、滑れば100m近く滑落してしまう。締まった雪でありノーアイゼンで通過する勇気は無くここでアイゼンを装着。ピッケルを併用して慎重にトラバースする。

 雪渓が終わってもまだ安心できない。鞍部の先も稜線上は絶壁で登るのは不能で、このまま西側を巻くしかない。ただ、できるだけ高度を稼いで稜線に近い場所で巻いた方が良さそうなので、危険の無い範囲で高度を上げる。またもや急な雪登り。先人の足跡が微かに残り、正しいルートらしい。

 雪が終わると岩壁基部を左に巻いて小尾根を乗り越える。この尾根のおかげでその先がどうなっているのか分からなかったが、見えた斜面は絶壁ではなく灌木が生い茂る普通の斜面で一安心。ただ、灌木という灌木の枝はすべて氷と化した霧氷がびっしり付いており、これの中に突っ込むのかと思うと気が進まない。濡れないようゴアを着た方がいいかとも考えたが、のんびりとザックを下して着替えられるような場所ではなかったし、まだ霧氷は溶けるかどうかの微妙な温度で派手に濡れることはないだろうと考えて、長袖シャツにジャージのまま灌木藪に突入、少し進むと傾斜がきつくなって巻くのが厳しくなり、垂直に近い斜面を灌木を利用して2,3mほどよじ登ると岩峰のてっぺんに出た。ここも灌木が生い茂って足元は見えず、岩峰の上に立っているとは認識できない。目の前の小鞍部へも霧氷がこびりついた灌木を押し分けて進んだ。基本的に、危険地帯はここまでが核心部であった。私は登りだったからまだましだが、下りの場合、技量にもよるがロープで確保した方がいいかもしれない。雪渓が落ちていればたぶんロープは必要ないだろう。

 ここから三尾根岳までは、ほとんどの区間で稜線上の雪が落ちてしまい、笹と灌木の尾根上をよじ登ることになる。この区間の尾根はエッジが鋭く風下側の東斜面が切れ落ち、ただでさえ雪が落ちやすい条件なのに、それに加えて南向きの尾根だからもっと雪が早く落ちてしまうのだろう。たまに残った雪はかなり急傾斜で、藪を漕ぐよりマシだろうと雪渓をよじ登ることが多かったが、1か所だけ傾斜がきつすぎたこと、雪が固くてキックステップでも浅くしかアイゼンの歯がかからないことが重なり、両足のアイゼンとも滑って立ったまま2mほど滑り落ちたこともあった。幸い、その下は灌木藪なので止まったが、気が抜けない。もっとも、落ちたらアウトの状況だったらピッケルもまじめに使い、何度も雪面をキックして足元をがっちり固めてから足を進めただろうけど。

 そんなことをやりながら少しずつ藪をクリアして高度を上げる。危険地帯の通過の難易度が上がる問題があるが、この藪漕ぎ距離を考えると小出俣山から下ってくる方が体力的、所要時間的には有利に思えた。まだ3月だというのにこれほど藪が出ているとは予想できなかった。1680m肩へは西側斜面の残雪が利用できたので藪を回避、尾根に乗るとまたもや低い笹と低い灌木藪との格闘。既にガスの層に突入し、視界は50m程度しかなく先の様子が全く見えない。

 通常、尾根が広く傾斜が緩い場所は遅くまで雪が残るのだが、なぜか三尾根岳周辺は広く傾斜が緩い稜線なのに広範囲で藪が出てしまっていた。私の予想では少なくとも三尾根岳と小出俣山を結ぶ稜線は雪に覆われて歩きやすいと考えていたのだが。周囲はガスがかかり視界が狭く、山頂がどこなのか皆目見当がつかないまま進んでいくと下り坂になった。あれ? 地形図を見ると下りは山頂を通過しないと現れない。しかし、山頂があったなら、東に延びる尾根にはびっしりと雪庇が付いているはずだ(と勝手に思っていた)。しかし、東には尾根らしい尾根は見えず同じような傾斜が続き、その先はガスに溶け込んでいた。見える範囲は一面の低い藪。立ち木があれば三尾根岳の手製標識があってもいいだろうが、この植生では目印は皆無。周囲が見えないので山頂かどうかも確信が持てない。こんなときこそGPSの出番で、電源を入れるとまさにここが三尾根岳山頂であった。まさかこんな風景だとは思わなかった。ということは、小出俣山方向は雪稜の楽々歩きだと思っていたのがしばし藪漕ぎか・・・・。

 しかし、その前に計画通りスルス俣山に足を伸ばそう。だだっ広い地形+ガスで先が見えないので進路が不安だが、距離的には大したことはない。ここまで来て山頂を踏まないと後悔間違いなしだ。北に下っていくとやがて尾根が明瞭化すると同時に雪が出現、藪が埋もれて格段に歩きやすくなった。調子に乗って尾根を下っていったが途中で進路を確認すると西に向かっているではないか。地形図を出して確認するとスルス俣山へ続く尾根はこの西尾根の途中からニョキっと北に派生しており、視界があれば簡単に分岐が分かるのだろうが、この状況では慎重に行動しないと尾根に乗れない。どこまで標高を落としたのか分からないが、右(東)にトラバースすればどこかで目的の尾根にぶつかるはずなので急遽進路変更。幸い、斜度は緩く積雪も豊富、雪質も良好でトラバースは楽であった。

 最初の尾根に到着、ガスで先の様子が見えないままなので方位磁石で進路を確認、正しい尾根ならほぼ真北のはずが北西を指していた。これは一つ手前の尾根なのでトラバース続行。次の広い尾根のほぼ鞍部に合流、相変わらず尾根の先はガスで見えないが、直近の範囲は水平に伸びている。地形図を見る限りこの地形があるのはスルス俣山に続く尾根だけなのでここが正解だ。方向も北を向いている。この尾根も積雪豊富で藪から解放された別天地だった。これで青空ならば最高なのだが・・・。尾根西側に生えている立ち木はすべて霧氷で真っ白だった。

 途中にある1650m峰は少し藪が出ていたが雪がつながるやや右側を迂回、その先は再び広い真っ白な尾根が続く。スルス俣山が近付くと尾根が広がってだだっ広くなり、帰りにルートミスをしたくらいなので視界が無い時は下りは要注意個所だ。緩く登ると一面の雪原の中にぽつんと藪が出た小ピークが登場、これがスルス俣山だった。低灌木だけで立ち木は無く標識皆無。DJFがここを踏んだ時は上天気で雲海に浮かぶ島のようだったようだが、今回はガスに巻かれて五里霧中。まあ、でも山頂に立てただけもよしとしよう。

 帰りは逆方向で登りになるので気を許してしまい、最初から東に延びる尾根に引き込まれそうになったが、往路の足跡が無かったのですぐに気付いた。正しい尾根に乗ればもう迷うことは無く、鞍部を通過して登り返しで三尾根岳を経由せずに左にトラバースして三尾根岳と小出俣山間の鞍部に出るようルート取りする。この斜面も一面の残雪と背の高い樹林で傾斜も緩く、トラバースにもってこいだった。稜線に出る最後だけ樹林の背が低くなり、枝に付いた霧氷を頭から浴びないように気をつけながら進む(たまにピッケルでたたき落とした)。

 小出俣の稜線に出ると、南側は急斜面で雪庇の大半が落ちてしまい、僅かな幅だけ残っている程度あった。稜線の北側は背の低い樹林帯で中に突っ込むと霧氷まみれになりそうで、どちらにしても予想していたなだらかな雪稜歩きとは程遠い光景だった。三尾根岳方面はやっぱり藪が出てしまっている。小出俣山に登った時はこんな風景とは想像できなかった。稜線上に僅かに引っ掛かった雪を歩くが、新雪に隠れてクラック多数で踏み抜きが多く歩きにくい。かといって北斜面は地面付近から枝分かれした低木藪だからまだ踏み抜きの方がマシだ。雪が落ち切ってしまったところは笹藪だった。

 まだガスの中なので小出俣山は全く見えず、どれくらい歩けばいいのか感覚が分からないのがつらいところだ。ただ、地形図を見ると鞍部から山頂まで大した標高差ではないのが幸いだ。山頂が近付くと尾根上の雪はズタズタで灌木藪がひどくなり、北斜面の藪が薄い個所に逃げ込むと先人の足跡発見。でも雪はスカスカで表面が薄く強度が無いので踏み抜きの連続で疲れる。おまけにエビのしっぽを纏った灌木。枝が乾いていればどうということはないが、頭から雪をかぶるのは・・・・。

 腰をかがめて灌木中を歩き、最後はピッケルでエビのしっぽをたたき落として灌木帯を突破、開けた場所に出た。ただ、相変わらずガスって周囲が見えない。しかし雪面には真新しいアイゼンの跡が1人分あり、ここで折り返して戻っていた。よく見ると前方のなだらかな雪稜は緩く下っているようで、ここが小出俣山山頂だった。今までの雪割れや笹藪、灌木が嘘のようなでかい雪庇に覆われて立ち木は皆無。山頂のみ低い灌木が僅かに出ているだけだった。灌木が顔を出しているくらいだから山頂付近の積雪量は少なく、笹と一緒に三角点が顔を出していた。前回来た時には前日の降雪が数10cmあったので三角点や藪は影も形もなかったわけだ。本日の風景が本来のこの時期の姿らしい。

 これで本日のすべてのピークを踏んだことになり残るは下山のみ。しかも安全なオゼノ尾根なので山頂でのんびり気楽に休憩できる。今日は土曜日なので既に立ち去った先人の他にも登ってくる人がいるだろうと期待しつつ、天候の回復も期待しながら休憩。しかしお昼なのに他に登ってくる人は皆無だし、ガスは三尾根岳から小出俣山を結ぶ稜線を境界として北側から風に乗って押し寄せてくる状態が続き、肝心の上越国境方面は真っ白けのままだった。南方は雲が多いものの雲間から日が差しているが、ずっと南の方にいくと低い雲が垂れこめ、子持山は山頂部が雲に入っていた。ちょうど群馬の北半分が一番天気がいいエリアだったようだ。

 1時間近く山頂に滞在したがガスが晴れることはなく、他に登山者が現れないまま下山を開始。足を延ばしてひっくり返って休憩したおかげか、疲労は回復して下りは快調だ。オゼノ尾根の分岐は阿能川岳へと続く主稜線の雪庇の陰に隠れて見えにくく、当初はアイゼンの足跡に引っ張られて阿能川岳方向へ向かってしまったが、すぐに気付いて引き返し、雪庇の段差が少ないところからオゼノ尾根に入った。昨日のものとみられる複数の足跡があり、太く単純な形状の尾根で目印類も多いので迷う心配はない。しかも主稜線南側はガスから解放されて下界まですっきり見えているし。山頂がこれだったらなぁ。尾根上部のブナは霧氷で真っ白だが、標高が落ちてゆくと枝が白くなくなる。右手を見れば往路で歩いた尾根で、烏帽子岳手前の岩峰の位置がはっきりとわかる。左手は阿能川岳から南に延びる尾根。アイゼン跡の主の他、今日の入山者はいたかな?

 高度が落ちると徐々に積雪が減ってきて、標高1050mくらいでほぼ雪が消える。前回の経験で分かっていたが、この時期に雪が消える場所では笹が薄く生えている程度で藪は濃くなく、楽々下れるし登りにも支障は無い。相変わらずブナの幹には点々と赤ペイントが続いていた。

 尾根末端は平坦な杉の植林で、尾根上では消えていた雪がまだ積もっていた。林道に下る直前に杉の幹にくくりつけられた黒い箱を発見、見てみると下部に小型の赤外線感知センサが付いていて、赤外線LEDが上部に並び、真ん中には穴があいている。これは赤外線感知式の野生生物撮影用デジカメに違いない。前から撮影すると私が撮影されてしまうので斜め横から撮影。これで電池がどのくらい持つのだろうか。

 林道に出ると「31」の標識があり、林道起点より3.1kmらしかった。雪が残っていることを考えると1時間くらいかかりそうだ。日中で雪が緩んで沈み量が多く、下りよりずっと疲れる。それでも起点から2kmくらいで雪が消えて格段に歩きやすくなり、その後は足取り軽く歩けた。途中、水力発電所の取水堰があったが、小出俣沢の水はここでほとんどが発電所に送水されて下流側の深い谷底にはほとんど水がなかった。

 やがて往路で斜面に取りついたポイントを通過、林道起点から約500mだった。オーバーハングした岩は林道から約200m。実際は自然にオーバーハングしているのではなく、林道開設に伴って林道部分のみ削り取られた結果のようだ。ゲート前の駐車場には車が計4台、登山者は見なかったので私の車以外は渓流釣りだろう。と思ったら飯を食っていたらザックを背負った単独男性が到着。話を聞いたら十二社ノ峰を往復してきたそうだ。雪の上に残った私の足跡も見たそうだ。本日の登山者は2名のみ。残雪期最盛期にこれはもったいない。登っている当人にとっては静かな山旅ができて良かったが。

 

 

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